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ムズムズ脚症候群


                           

【病気の特徴】

夕方から夜間にかけて、じっと座っているときや横になっている時に、脚に違和感や不快な感じが出現し、脚を動かしたくなるといった症状はないでしょうか? この不快感は「むずむずする」「虫が這っている」「ピクピクする」「ほてる」「いたい」「かゆい」など、さまざまな言葉で表現されます。それらの違和感は、ムズムズ脚症候群の症状である可能性があります。
ムズムズ脚症候群のそれらの症状は夕方から夜にかけて現れるのが特徴です。そのため、「眠りにつきにくい」「夜中に目が覚める」「ぐっすり眠れない」などの睡眠障害の原因となり、睡眠の質が悪くなると社会生活や日常生活に支障を来すようになります。

ムズムズ脚症候群の4つの必須診断基準を示します。下記の1から4のすべてを満たしていた場合には、ムズムズ脚症候群と診断されます。

1. 脚を動かしたいという強い欲求が不快な下肢の異常感覚に伴って、あるいは異常感覚が原因となっておこる

2. その異常感覚が、安静にして、横になったり座っている状態で始まる。あるいは増悪する(より悪化する)

3. その異常感覚は運動によって改善する

4. その異常感覚が日中より夕方や夜間に増悪(より悪化)する

【診断基準の各項目についての解説】

1. 下肢を中心とした違和感  違和感が、脚の表面ではなく深部(筋肉の奥の方)に生じるのが特徴です。異常感覚は通常、両脚に起こることが多いのですが片側の場合もあります。脚以外の部位に違和感を生じる場合もありますが、原則的に症状が脚からスタートすることが特徴であり、(脚以外の部位に違和感があっても)脚の違和感がなければムズムズ脚症候群とは診断できません。また、違和感の中でも、痛みを感じる方が多いかもしれませんが、脚を動かしたいという感覚を伴わず(痛みだけを感じる場合)ムズムズ脚症候群ではない可能性があります。

2. 脚を動かしたいという欲求  異常感覚の不快感のために、脚を動かしたいという強い欲求が現れるのが特徴です。違和感を我慢していると増悪(さらに悪化)してしまいます。違和感は、横になる、座るなどして1時間ほどで出現してくることが多く、じっと静かにしている時間が長いほど、症状は出やすくなります。従って、飛行機での移動中や会議中などに現れやすくなります。一方で、何かに集中していれば、じっとしていても症状が出現しにくいとされています。ムズムズ脚症候群が、中枢神経系活動(の低下)と関係しているという報告もあります。

3. 脚を動かすと症状が軽くなる  通常ムズムズ脚症候群の違和感は脚を動かすなどの運動の直後に消失します。このことは、他の疼痛性障害と異なる点です。しかし、ムズムズ脚症候群が進行してくると運動や、マッサージ、冷やすなどの対処療法が効果を示さないこともあります。  また、繊維筋痛症や血管性疾患の患者さんにもムズムズ脚症候群の様な下肢の疼痛が出現しますが、脚を動かすことで改善することはないといった点がムズムズ脚症候群との違いです。

4. 症状には日内変動がある(症状が現れやすい時間帯がある)  症状の出現に日内変動(症状が現れやすい時間帯)があることも、ムズムズ脚症候群の大きな特徴です。他の神経疾患や血管性疾患、薬剤の副作用では、一日中症状があるもしくは、決まった時間に症状が出るわけではないといった点から、ムズムズ脚症候群と区別できることがあります。

【疫学】

日本におけるRLSの有病率は3-5%と報告されています。一般的に年齢が上がるにつれてRLSを患う割合が上昇する傾向にあります。また、家族歴が関与しているという報告があり、発症に遺伝子が関与している可能性があると考えられています。

【ムズムズ脚症候群の原因】

1.ドパミン機能障害:これまでの研究で、ムズムズ脚症候群には中枢ドパミン機能障害が関与しているのではないかと考えられています。ドパミン欠乏もしくはドパミン受容体機能異常であるとの仮説が報告されています。

2.鉄代謝異常:ムズムズ脚症候群では脳内の鉄異常が生じている可能性があると報告されています。中枢神経系における鉄の貯蔵と輸送に問題があるということです。特に、血清鉄は正常でもフェリチン濃度が低下している場合が多くみられます。  鉄は、ドパミン産生の補助因子である、ドパミンD2受容体の構成要素である、ドパミン放出の調整に関わっていると報告されており、ドパミンとも密接に関係しています。  また、鉄代謝には日内変動があり、血清鉄濃度は真昼に高くなり、真夜中に低くなるという特徴があります。この鉄代謝の特徴は、夜にかけて症状が出現し、悪化するムズムズ脚症候群の日内変動と関係していると考えられています。

3.遺伝子:ムズムズ脚症候群患者の家族内にはムズムズ脚症候群をもつ者が多いという報告や、特に早期発症のムズムズ脚症候群(45歳以前に発症するタイプです)では明らかな遺伝子的発症要因が関与しているという報告があります。なかでもBTBD9という遺伝子を始めいくつかの遺伝子がこの病気に関与しているとされています。

【ムズムズ脚症候群を合併しやすい疾患】

先ほど説明させていただいたように、鉄が不足する疾患(下記1、2、5)とドパミン機能障害(4)ではムズムズ脚症候群を合併しやすくなります。
1. 貧血・鉄欠乏症
2. 腎障害
3. 神経障害
4. パーキンソン病
5. 妊娠

【ムズムズ脚症候群を悪化させる生活習慣、薬剤】

喫煙
飲酒
カフェインの過剰摂取
ドパミン阻害薬、選択的セロトニン受容体再取り込み阻害薬(SSRI)、三環系抗うつ薬

【ムズムズ脚症候群の治療】

先ほどムズムズ脚症候群の原因はドパミンと鉄代謝異常であると説明致しました。治療もそれらの原因に準じたものとなっています。つまり、薬物によりドパミンと鉄を補給するという方法です。  ドパミンアゴニスト(ドパミンを増やす物質)としては、プラミペキソール、ロピニロールが第一選択となっています。また、疼痛を伴う場合にはガバペンチンを選択する場合もあります。ドパミンアゴニストは主にパーキンソン病の治療に用いられますが、ムズムズ脚症候群に用いる場合はごく少量となります。  上記ドパミンアゴニストの副作用として、服薬初期に胃腸症状、悪心、嘔吐などが出現することがありますが、これらは通常一時的なもので、数日で消失するケースが多いです。  また、鉄欠乏性貧血を併発している場合(フェリチン濃度50ng/ml未満)には鉄剤を併用した治療が効果的であると報告されています。

【ムズムズ脚症候群と睡眠】

眠前の違和感のため、入眠困難(寝付きにくさ)を生じます。また、ムズムズ脚症候群の60-80%に合併するといわれている周期性四肢運動障害(periodic limb movement Disorders; PLMD)という病気があります。PLMDは睡眠中に足関節の背屈や膝を曲げて蹴る様な運動が起こり、中途覚醒(夜中に目が覚める)や熟眠困難を生じるものです。眠りが浅いために、日中の眠気を伴うこともあります。(尚、PLMDの診断には終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です)